リビングと寝室、あるいは子供部屋との間仕切りとして使われる、室内の引き戸。その開放感は魅力的ですが、一方で、家族間でのプライバシーの確保が難しいという側面も持っています。在宅ワークが普及し、家族が同じ家の中で、それぞれの時間と空間を必要とするようになった現代において、室内引き戸に後付けで鍵を取り付ける需要は、ますます高まっています。本格的な防犯性は必要ないけれど、きちんと「個室」としての境界線を引きたい。そんなニーズに応える、様々なタイプの室内引き戸用の鍵が存在します。最も一般的なのが、「引戸鎌錠」と呼ばれるタイプです。これは、引き戸の戸先(先端部分)の木部に、錠前本体を掘り込んで設置するものです。室内側のつまみを操作すると、鎌状のデッドボルトが飛び出し、柱に取り付けた受け座に引っかかって、戸をロックします。見た目もスッキリとしており、本格的な個室感を演出できます。設置には、ノミやドリルを使った木部への加工が必要となるため、DIYに自信がない場合は、プロの建具屋や工務店に依頼するのが良いでしょう。より手軽に設置したい場合は、「面付(つらつき)表示錠」という選択肢があります。これは、ドアの室内側の面に取り付ける後付けの錠前で、トイレの鍵のように、施錠すると外側の表示が「使用中(赤)」に変わるものが多くあります。家族に対して、「今は入らないでね」という意思表示を、穏やかに伝えることができます。多くはネジで固定するため、簡単なDIYで設置が可能です。さらに、工事を一切したくないという場合には、前述の「両面テープで固定する簡易ロック」が最適です。これらの鍵を取り付けることで、オンライン会議中に子供が入ってきてしまうのを防いだり、思春期の子供に自分だけのプライベートな空間を与えてあげたりと、家族全員が、より快適で、ストレスの少ない暮らしを送るための、ささやかな、しかし確実な一歩となります。それは、家族の間に壁を作るのではなく、互いを尊重し合うための、健全な境界線を築く行為なのです。