日本の伝統的な家屋において、空間を仕切る建具として古くから親しまれてきた「引き戸」。開閉時にスペースを取らず、風通しが良いという利点から、現代の住宅でも、玄関や室内の間仕切りとして広く採用されています。しかし、この引き戸、特に玄関に使われている場合、一般的な開き戸と比較していくつかの構造的な弱点を抱えており、防犯という観点からは、特別な注意と対策が必要となることをご存知でしょうか。まず、引き戸の鍵の種類と、その特性を理解することが、防犯意識を高めるための第一歩です。古い住宅でよく見られるのが、戸の中央部分で二枚の戸が重なるところに設置された「引違戸錠」です。旧式のものは、施錠しても戸を少ししか固定できない簡易なものが多く、ピッキングに対しても脆弱です。また、戸の先端部分にある「戸先錠」も、昔ながらのねじ込み式など、簡単な構造のものは、もはや鍵としての防犯性能は期待できません。これらの旧式の鍵は、空き巣などの侵入犯罪者にとっては、格好のターゲットとなり得ます。彼らが用いる手口として最も多いのが、ドアと柱、あるいはドア同士のわずかな隙間にバールなどの工具を差し込み、てこの原理で錠前を破壊したり、戸自体をレールから外してしまったりする「こじ開け」や「戸外し」です。引き戸は、その構造上、どうしても開き戸に比べて隙間が大きくなりがちで、この手口に対して脆弱なのです。さらに、採光のために大きなガラス面を持つ引き戸は、ガラスを小さく割って、そこから手を入れて直接内側の鍵を開ける「ガラス破り」にも無防備です。しかし、これらの弱点は、決して克服できないものではありません。適切な鍵に交換し、補助錠を追加することで、引き戸の防犯性能は、開き戸と同等、あるいはそれ以上に高めることが可能です。まずは、自宅の引き戸の鍵が、どのようなタイプで、どのようなリスクを抱えているのかを、正しく認識することから始めてみましょう。