「自分の部屋の鍵なのだから、自分で好きな業者に頼んで、自由に交換しても良いのではないか」。分譲マンションにお住まいの方の中には、鍵交換に管理会社が関与することに、そんな素朴な疑問や、少しばかりの煩わしさを感じる方もいるかもしれません。しかし、管理会社が鍵交換の窓口となるのには、個人の自由を制限するためではなく、マンションという共同生活の場における「全体の安全」と「公平性」を維持するための、極めて重要で合理的な理由が存在するのです。その最大の理由が、「共用部分との連動性」の確保です。現代の多くの分譲マンションでは、エントランスのオートロックキーと、各住戸の玄関キーが、一本で兼用できるシステムが採用されています。このシステムは、マンション全体で統一された、非常にデリケートなものです。もし、各居住者が、バラバラの業者を使い、異なる種類のシリンダーに勝手に交換してしまったら、この統一性は完全に崩壊してしまいます。オートロックが開けられなくなったり、他の居住者の鍵に影響が出たりと、マンション全体のセキュリティシステムに、深刻な不具合を引き起こしかねません。管理会社は、マンションのキーシステムを正確に把握し、それに適合した、正規のシリンダーを手配する役割を担っているのです。第二の理由が、「緊急時対応」の確保です。火災や水漏れ、あるいは孤独死の発見など、部屋の内部で緊急事態が発生した場合、管理会社や消防隊員は、被害の拡大を防ぎ、人命を救助するために、迅速に部屋の中に入る必要があります。その際、全ての部屋を開けることができる「マスターキー(共用非常キー)」の存在は、不可欠です。各住戸の鍵が、このマスターキーシステムに対応していることを保証するためにも、管理会社が一元的に鍵交換を管理する必要があるのです。そして、第三の理由が、「入居者間の公平性」と「トラブル防止」です。管理会社が指定する業者や料金体系を設けることで、知識の有無にかかわらず、全ての居住者が、適正な価格で、質の高いサービスを受けられるようにしています。これにより、悪質な業者による高額請求などのトラブルを未然に防ぐことができるのです。
なぜ管理会社は鍵交換に関与するのか