DIYでの鍵交換は、多くのメリットがある一方で、全てのケースで推奨されるわけではありません。中には、構造が複雑であったり、特殊な作業が必要であったりするため、素人が手を出すべきではない、プロの領域が存在します。自分でやるか、プロに頼むか。その正しい「境界線」は、どこにあるのでしょうか。その判断を誤ると、取り返しのつかない事態を招きかねません。まず、プロに任せるべきケースの代表例が、「ドアに追加の加工が必要な場合」です。例えば、既存の錠前とは全く異なるタイプの、より大型の錠前に交換したい場合や、新たに補助錠を増設したい場合などです。これらの作業では、ドア本体にドリルで穴を開けたり、ノミで木部を削ったりといった、専門的な加工技術が不可欠となります。採寸を誤れば、ドアに修復不可能な穴を開けてしまうことになり、ドアごと交換という、最悪の結末を招きます。次に、交換したい錠前が、「複雑な構造を持っている場合」です。例えば、ドアハンドルとサムターンが一体化した、縦長の「プッシュプル錠」や、西洋風の装飾が施された「装飾錠(サムラッチ錠)」、あるいは、内部で複数のボルトが連動して動く「多点ロック錠」などです。これらの錠前は、内部の構造が非常に複雑で、分解・組立には専門的な知識と経験が必要です。素人が見よう見まねで分解すると、元に戻せなくなってしまう可能性が非常に高いのです。また、当たり前のことですが、「作業に少しでも自信がない、あるいは不安を感じる場合」は、迷わずプロに依頼すべきです。鍵は、家の安全を守る、最も重要な部品の一つです。取り付けに不備があれば、防犯性能が損なわれるだけでなく、ドアが開かなくなって閉じ込められるといった、直接的な危険にも繋がりかねません。プロに支払う費用は、単なる作業の対価ではありません。それは、長年の経験に裏打ちされた「技術」と、万が一の際の「保証」、そして何より「絶対的な安心」を手に入れるための、賢明な投資なのです。その境界線を正しく見極める冷静な目を持つこと。それが、大人のDIYの作法と言えるでしょう。
自分でやるかプロに頼むかその境界線