あの日の夜のことは今でも忘れられません。冬の厳しい寒さの中、疲れ果てて帰宅した私は、玄関の前で自分の目を疑いました。いつも入れているはずの鞄のポケット、上着の裏地、さらには通勤鞄の底まで、どれだけ探しても鍵が見当たらないのです。家の中には予備の鍵があるものの、手元には一本もありません。実家も遠く、スペアを預けている知人もいませんでした。元鍵がない、つまり完全に締め出されたという事実に気づいた瞬間、目の前が真っ暗になりました。 最初は自力で何とかしようと、窓の施錠を確認したり、管理会社に電話をかけたりしました。しかし、すでに深夜の二時を回っており、管理会社の緊急ダイヤルは繋がらず、寒さで思考能力も低下していくばかりでした。インターネットで検索を繰り返すうちに、鍵を無くしたら鍵穴から作れるという情報を目にしましたが、半信半疑でした。元となる鍵がないのに、どうやって鍵を削り出すというのでしょうか。それでも背に腹は代えられず、二十四時間対応の鍵屋さんに電話をかけました。 三十分ほどで到着した作業員の方は、私の震える様子を見て落ち着くように声をかけてくれました。まずは本人確認を丁寧に行い、私がこの部屋の住人であることを確認すると、すぐに作業に取り掛かってくれました。驚いたのはその手際の良さです。小さなライトと鏡のような道具を鍵穴に差し込み、一点をじっと見つめながら何かをメモしていました。そして作業車に戻り、機械の作動音が響くこと数分、手渡されたのは紛れもない私の家の鍵でした。 その新しい鍵を鍵穴に差し込み、カチャリという音とともにドアが開いた瞬間、私は安堵のあまり座り込んでしまいました。元鍵がない状態から、ものの三十分ほどで全く新しい鍵を作り上げるプロの技術に、ただただ圧倒されるばかりでした。作業員の方は、鍵穴の中にある段差を読み取って、それを数値化して削ったのだと説明してくれました。魔法のように見えた作業の裏には、緻密な計算と長年の経験に基づいた技術があることを知りました。 この経験から学んだ教訓は二つあります。一つは、どれほど複雑な最新の鍵であっても、鍵の専門家であれば解決の糸口を見出してくれるという安心感です。そしてもう一つは、このような事態を二度と起こさないための備えの重要性です。翌日、私はすぐにその鍵でさらに二本の合鍵を作り、一方は信頼できる友人に預け、もう一方は職場のロッカーに保管することにしました。鍵を一本も持たないという無防備な状態がいかに危ういものか、身をもって体験したからこそ、今の私の防犯意識は以前とは比べものにならないほど高まっています。