エンジニアリングの観点からキーレスエントリーとスマートキーの違いを紐解くと、無線通信技術とセキュリティプロトコルの劇的な進化が見えてきます。キーレスエントリーは、基本的には単方向のRF(無線周波数)通信を利用しています。送信機であるリモコンから、固定された、あるいはローリングコードと呼ばれる都度変化する暗号化された信号が送られ、車載の受信機がそれを照合します。このシステムにおいて重要なのは、信号が一致するかどうかという一点のみです。通信はボタンを押した瞬間に限定されるため、消費電力は極めて低く、非常にシンプルなロジックで動作します。一方、スマートキーは、より高度な双方向通信と近接検知技術を組み合わせています。ここでは通常、LF(低周波)とRFの二種類の電波が使い分けられています。車両側は数ミリ秒おきにLF電波を周囲に発信し、鍵の存在をスキャンしています。鍵がその範囲内に入ると、LF電波をトリガーとして鍵が起動し、RF電波で自身の固有認証情報を車両に返信します。この一連のハンドシェイクが成功することで、初めてロックが解除される仕組みです。キーレスとスマートキーの違いは、この自動的な認証プロセスが存在するかどうかにあります。この近接検知の精度を上げるために、車両の各所に複数のアンテナが配置されており、車内なのか車外なのかを数センチ単位の精度で判別しています。セキュリティ面では、スマートキーは非常に複雑な課題に直面してきました。常に電波のやり取りを行っているという特性上、信号のコピーや中継が行われやすいという脆弱性があります。これがリレーアタック問題です。初期のスマートキーは、単に信号の強弱で距離を測っていましたが、最新のシステムではタイムオブフライトという技術が導入され始めています。これは電波が往復する時間を光速ベースで計測し、物理的にどれだけ離れているかを正確に算出するものです。これにより、遠くにある鍵の電波を中継しても、応答時間が遅れるために不正なアクセスを遮断できるようになっています。キーレスエントリーにはなかった、物理的な距離という概念がスマートキーの設計には不可欠なのです。また、電力管理の設計も大きく異なります。キーレスエントリーのリモコンは、ボタンが押されるまで完全にスリープ状態にありますが、スマートキーは車両からの呼びかけを待ち受けるために、常にわずかな電流を消費し続けています。この待機電力をいかに低減しつつ、応答速度を維持するかがエンジニアの腕の見せ所です。最近では超広帯域無線通信であるUWB技術の採用も進んでおり、より低電力で高精度、かつセキュアな通信が可能になっています。キーレスとスマートキーの違いは、まさにこうした半導体技術と無線工学の結晶といえます。
技術的視点で見るキーレスとスマートキーの違い。