あれは忘れもしない、昨年の冬の真夜中のことでした。深夜二時、ふと目が覚めてトイレに立った私は、用を済ませて出ようとしたところで凍りつきました。レバーハンドルを押し下げても、ドアがびくとも動かないのです。鍵は確かに開いているはずなのに、何かに強く引っかかっているような手応えがありました。家には私一人しかおらず、スマートフォンはリビングのテーブルの上に置いたまま。静まり返った家の中で、たった一畳ほどの空間に完全に孤立してしまったのです。最初は「少し建て付けが悪くなっただけだろう」と軽く考えて、ノブを何度もガチャガチャと動かしましたが、状況は一向に改善されません。次第に心拍数が上がり、額からは冷や汗が流れてきました。 狭い空間での閉塞感は、想像以上に精神を削ります。私は壁を叩いて助けを呼ぼうとしましたが、外は深夜で誰も通るはずもありません。窓もないトイレだったので、空気まで薄くなっていくような錯覚に陥りました。そこで私は、必死に頭を働かせました。かつてテレビやネットで見かけたトイレの鍵の開け方の知識を絞り出したのです。まず、ドアの下にある僅かな隙間から、何とか外の空気が入っていることを確認して落ち着きを取り戻しました。そして、トイレットペーパーのホルダーに使われている小さなネジを外せないかと試みましたが、道具がなければ無理でした。次に、掃除用具の中に何か使えそうなものはないか探しました。そこにあったのは、使い古したプラスチック製のブラシの柄でした。 私はその柄の細い部分を、ドアと枠の隙間に無理やり差し込もうとしました。鍵の故障の多くは、ラッチという部品が固着してしまうことが原因だと知っていたからです。しかし、隙間が狭すぎてプラスチックの柄では歯が立ちませんでした。絶望しかけたその時、棚の奥に予備の掃除用ブラシのパッケージが残っているのを見つけました。そのパッケージに使われていた厚手の透明なプラスチック板。これなら隙間に入るかもしれないと考え、私はそれを手で引きちぎり、細長い板状にしました。それをドアの隙間に差し込み、手応えがある場所を探ります。ラッチがあると思われる高さで、その板を上下左右に激しく動かしながら、体全体でドアに体当たりをしました。 何度も何度も繰り返すうちに、突然「バキッ」という音とともにドアが数ミリ動きました。チャンスだと思い、さらに力を込めてプラスチック板を押し込みながらドアを引くと、あんなに頑丈だったドアが嘘のように開いたのです。廊下の明かりが見えた瞬間の安堵感は、人生で一番と言っても過言ではありません。結局、原因は内部のスプリングが切れてラッチが戻らなくなっていたことでした。この体験から学んだのは、トイレの鍵は突然壊れるということ、そしてスマホを常に持ち歩くか、あるいは中に何か道具を一つ置いておくべきだということです。翌日、私はすぐに新しいドアノブに交換しました。皆さんも、自分の家の鍵に少しでも違和感を感じたら、私のような恐怖を味わう前に早めの対策をしてください。